匿名医療保険等関連情報データベース(National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan, NDB)は,95%以上という高い悉皆性とそれに伴う膨大な量のデータ蓄積が特徴の医療ビッグデータである。NDBデータは2011年より研究者に向けたデータの第三者提供が始まり,2016年からNDBデータを基に診療行為等に関する基礎的な集計表であるNDBオープンデータが公表されている。NDBデータのような医療ビッグデータの利活用は医療の質向上や効率化に資すると期待され,様々な医療分野の調査に用いられている1–4)。しかし核医学診療の分野ではNDBデータをはじめとする医療ビッグデータの活用が進んでおらず,我々が調べた限りpositron emission tomography(PET)検査を中心に扱った報告はない。
日本アイソトープ協会医学・薬学部会ポジトロン核医学利用専門委員会は,日本核医学会PET核医学委員会と合同で,長年にわたりPET検査を実施している施設における保険診療と保険診療以外の検査の実施状況をアンケート調査し,その結果を雑誌Isotope Newsに報告している5, 6)。PET検査の保険診療に関しては,2023年12月にアミロイドイメージング製剤が保険適用になり,国内でも68Ga-PSMA製剤の臨床試験が行われている。PET検査の保険診療は今後さらに使用される薬剤が増えその重要性が増すことが予想される。本調査では,NDBオープンデータを用い,従来,我々が実施してきたアンケート調査では質問項目としていなかった各種PET検査の対象となる性・年齢や都道府県別に2022年度保険診療を調査した。また,NDBを活用して,2019年度から2022年度の診療月別のPET検査のデータと比較することで,2019年から世界中で流行している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のPET保険診療に対する影響について検討した。
第9回NDBオープンデータ(2022年度)の医科及び歯科診療行為のE画像診断「性年齢別算定回数」,「都道府県別算定回数」からPET検査に関する情報を収集した。また,第6回(2019年度)~第9回(2022年度)のそれぞれ医科及び歯科診療行為のE画像診断「診療月別算定回数」からもPET検査に関する情報を収集した(第6回のみ歯科診療行為の診療月別算定回数のデータが存在しない)。都道府県の情報は患者住所ではなく医療機関の所在地に基づくものである。都道府県別の人口は,総務省統計局の人口推計(2022年(令和4年)10月1日現在)から引用した7)。都道府県別のPET及びPET/CT装置台数は,2020年の医療施設調査(静態・動態)調査から集計した8)。都道府県別の人口10万対核医学専門医数は,2022年の医師・歯科医師・薬剤師統計から引用した9)。各種がんの全国年齢階級別罹患率(人口10万人対)は,国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)から引用した10)。虚血性心疾患の患者数は,2020年の患者調査から引用した11)。COVID-19の新規陽性者の推移は,厚生労働省「データからわかる—新型コロナウイルス感染症情報—」から集計した12)。
3・1 PET検査の算定回数
2022年度PET検査の保険診療の算定回数は,合計で528,840回であった(表1)。この数値は保険診療の回数であり,自由診療でのがん検診や治験の回数は含まれていない。そのため本邦におけるPET検査件数の全容を示すものではない。PETの装置別では,PETは106,780回,PET/computed tomography(CT)は416,504回,PET/magnetic resonance imaging(MRI)は3,680回,乳房用PETは1,876回であり,PET/CTがPET検査全体の約8割を占めていた。また薬剤別に見ると,[18F]fluorodeoxyglucose([18F]FDG)は99.6%,13N標識アンモニア剤は0.3%,15O標識ガス剤は0.1%であった。
表1 PET検査の保険診療の算定 |
PET検査の歯科診療は,[18F]FDGを用いたPETが2,136回,PET/CTが4,084回,PET/MRIが212回であり,それらの合計は6,432回でPET検査全体の約1.2%であった。歯科のPET検査は,歯科を標榜しているが口腔外科の診療を行う医療機関や診療科が行っているものである。
PET装置といった高額医療機器は効率的な医療提供体制の構築に向けて,医療機器の共同利用が求められている。PET検査は,従前より共同利用率が施設基準として定められており,その基準を満たさない場合(施設基準不適合)は所定点数の8割を算定することになっている。施設基準不適合の算定回数は,PET装置では[18F]FDGが6.2%,13N標識アンモニア剤が29.2%,PET/CT装置では[18F]FDGが3.7%,15O標識ガス剤が14.7%であった。PET/MRI及び乳房用PETには施設基準不適合の保険診療はなかった。
2022年4月の診療報酬改定により各診療行為に新しく「画診共同」のコードが新設された。PET装置を設置していない医療機関が装置を保有している他の医療機関に装置の使用(撮影等)を依頼し,設備の提供にとどまる場合に,設置していない医療機関が「画診共同」として請求する。そして両者が合議の上,検査費用の精算を行うことになる。2022年度より全ての診療行為に画診共同のコードが新設されたが,実際に算定されていたのは[18F]FDGを用いたPET及びPET/CTのみで,それぞれ597回と318回であった。
外来/入院比は,外来の算定回数を入院の回数で除した値である。PET検査の保険診療では,ほとんどの診療行為において外来が多い傾向が見られた。しかし15O標識ガス剤を用いたPET及びPET/CT検査は,それぞれ0.7と1.0と他の診療行為と比べて低かった。乳房用PETにおいては,入院の保険診療はなかった。
表1の男女比は,「性年齢別算定回数」のデータより計算した。NDBオープンデータでは,算定回数が10未満の場合は「-(ハイフン)」と記載され,数値は公表されない。したがって13Nや15Oを用いたPET検査は,全体としての検査件数が少ないため,男女年齢別(5歳階級)で集計すると10未満となる男女年齢が複数あり,結果として検査の総計よりも男女年齢別の合計が少なくなることが多々あった。特に15O標識ガス剤を用いたPET/CTは,男女共に全ての年齢が10未満のため,男女比は計算できなかった。全検査種のPETとPET/CTの男女比はそれぞれ1.4 : 1と1.1 : 1と男女共に近い算定回数であったのに対し,PET/MRIは1 : 2.2と女性が多く,装置によって男女比の傾向が異なっていた。
PET, PET/CT及びPET/MRIでは新生児,3歳未満の乳幼児(新生児を除く)及び3歳以上6歳未満の幼児に対して検査をした場合,加算を算定することができる。表1にPET検査に関するこれらの加算を集計した。2022年度の加算の算定回数は,新生児が0回,乳幼児が189回,幼児が253回であった。また,乳幼児と幼児の外来/入院比は,それぞれ0.3と0.7であった。
2022年度PET検査の保険診療の算定回数は,人口千人対では4.2回である。先述のとおり,この回数には自由診療でのがん検診や治験の回数は含まれない。保険診療の回数を,経済協力開発機構(OECD)から公開されている各国の画像診断検査件数(日本は自国の検査件数のデータをOECDに提出していない)と比較すると13),2022年の人口対のPET検査件数では(データ入力がある国)26か国中14位であった(表2)。本委員会が実施している先述のアンケート調査結果では2022年の[18F]FDG-PET検査の20%弱が自由診療や治験等となっている14)。PET検査全体の20%を保険診療以外と仮定すると,人口千人対のPET検査件数は約5.3回となる。2020年のPET装置の人口100万人対のPET装置台数については,4.71台であり31か国中4位であった。
表2 PET検査に関わる装置台数と検査件数 |
3・2 性・年齢別
「性年齢別算定回数」より集計した診療行為毎の男女年齢別(5歳階級)の算定回数を,それぞれ医科診療の[18F]FDGを用いたPET, PET/CT及びPET/MRI,歯科診療の[18F]FDGを用いたPET, PET/CT及びPET/MRI,13N標識アンモニア剤を用いたPET,乳房用PETを,それぞれ図1から図6に示す。図4,図5と図6には,それぞれ2020年の口腔・咽頭癌罹患率,虚血性心疾患患者数,乳癌(上皮内癌含む)罹患率を折れ線グラフで示す。各種がんの全国年齢階級別罹患率(人口10万人対)は,0~4歳から85歳以上として図中にプロットしている。虚血性心疾患の患者数は,2020年患者調査の総患者数(傷病別推計)を性・年齢別にプロットしている。15O標識ガス剤を用いたPET/CTは,前述のとおり全ての年齢が10回未満であった。またPETについても,10回未満の年齢の回数が総計の半数以上を占めており,半数以上の回数が省略された年齢分布では正しい傾向を読み取れないため,15O標識ガス剤を用いたPET及びPET/CTについて性・年齢別には計算できなかった。
[18F]FDGを用いたPETでは,0~4歳から55~59歳では男女ともに同じように年代が上がるにつれ算定回数が増え男女共にほぼ同じ推移であった,60~64歳から男性が女性と比較して大きく増加し70~74歳で男女差が最も開くが,それ以降は再び男女差が少なくなり90歳以上では男女ともにほぼ同数であった。全年齢の診療行為別で最も算定回数が多かったのは[18F]FDGを用いたPET/CTである。その年齢分布は,男性はPETと同じ傾向で,70~74歳をピークにした分布であった。しかし女性についてはPETと異なり,30~59歳では男性を上回る件数で推移し,60~64歳で再び男女ほぼ同数となり,65~69歳から男性が女性を上回る分布であった。
PET/MRIは前述の2装置と異なり,ほぼ全ての年代で女性が男性を上回っており,女性の算定回数のピークは40~79歳と幅広い年齢に分布していた。
歯科診療の[18F]FDGを用いたPET, PET/CT及びPET/MRIでは,男女共に30歳付近から年齢が上がるにつれて回数が増加するが,50~54歳ごろから男性が女性を大きく上回り,80~84歳ごろに再び同数に分布していた。ピークは男性が70~74歳,女性が80~84歳であった。13N標識アンモニア剤を用いたPETは,男女共に40歳から増加して70~79歳の年代をピークに分布していたが,全ての年代で男性が女性の約2倍程度の回数であった。乳房用PETは,女性が30歳から増加し45~79歳に幅広いピークを示した。
3・3 都道府県別
都道府県別の人口10万対のPET保険診療の合計算定回数を図7に示す。また図中に,人口10万対核医学専門医の人数並びにPET及びPET/CT装置の台数(PET等台数)を示す。PET保険診療の全国平均は,455回(標準偏差:160回)であった。核医学専門医とは,日本核医学会からPETや一般核医学などの核医学診療に優れた能力を有する専門臨床医として認定される専門医である。都道府県別の核医学専門医の人数は,全国平均で0.8人であった。都道府県別の人口10万人対PET及びPET/CT装置の台数は,全国平均で0.52台であった。医療施設静態調査は3年毎に行われるもので,2020年10月1日において開設している病院及び診療所を対象としている。対象とするデータが2022年ではないので注意が必要である。
合計算定回数が600回を超えたのは,石川県,京都府,広島県,徳島県,愛媛県,和歌山県の6府県であった。一方,300回を下回ったのは,茨城県,福岡県,宮崎県,三重県,新潟県,秋田県,佐賀県の7県であった。PET保険診療の算定回数が最も多い石川県(912回)は,最も少ない佐賀県(165回)の5倍以上の回数であった。石川県は専門医の人数も最も多く(2.1人),装置の台数も全国平均より多かった(0.79台)。次に多い京都府(884回)は,専門医の数は平均を上回っていた(1.2人)が,装置に関しては平均とほぼ同じであった(0.54台)。PET保険診療の算定回数と専門医人数及び装置台数の相関係数は,それぞれ0.492と0.511であった。
4. COVID-19流行の影響について(2019年度~2022年度)
COVID-19の感染が国内で初めて確認されたのは,2020年1月である。同年3月に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が改正され,COVID-19は同法の適用対象に加えられた。そして4月には同法に基づく緊急事態宣言が初めて発出され,合計4度にわたり宣言が発出された。COVID-19の流行は8回のピークが確認され,第8波が収束した後,2023年5月にCOVID-19は感染症法の位置づけが5類に移行された。
2019年度から2022年度にかけて,COVID-19の流行は社会活動,医療機関に多大な影響を与えた。特に,胃内視鏡検査をはじめとするがん診断の検査数や外科手術件数の減少が報告されている15, 16)。具体的な疾患としては,頭頸部癌の診断数の減少が確認され17),消化器癌18)や非小細胞肺癌19)においては,流行時やその前後で比較すると従来と異なる病期や腫瘍の大きさでの診断が報告されている。また[18F]FDGを用いたPET検査は受診患者数が減少し,より進行したステージでのがん診断が報告されている20)。
医療機関においては,COVID-19患者の対応によりCOVID-19患者以外の診療に制限を設け,日常診療体制の一時的な制限やがん検診を含む検診の中止などが行われた20)。国の統計資料からも2020年度と2021年度に各種がん検診受診者の減少が報告されている21)。アンケート調査においても,2019年から2020年における[18F]FDG-PET検査の目的で,検診の件数は6,002件から3,683件と大きな減少が見られた22)。
2020年1月から2023年3月のPET保険診療の診療月別算定回数,COVID-19の新規陽性者の月別推移を図8に示す。また2020年度~2022年度の各月について,COVID-19流行の影響が少ないと考えられる2019年度の同月比を図中に破線で示す(2019年度の歯科診療の診療月別算定回数データは存在せず,2019年度PET検査全体において歯科診療は約1.2%であったため,当該年の診療月別算定回数は約1.2%少なくなる)。NDBオープンデータの診療月別算定回数は,第6回(2019年度)の医科診療行為より集計されており,2019年度以前のデータが存在しないため今回2019年度のデータを比較に用いた。図中には,8回の新規陽性者数のピークに該当する月の陽性者数と,緊急事態宣言の期間を4つの枠で示す。2020年度から2022年度の3年間において,PET保険診療が40,000回を下回ったのは,2020年4月と5月,2021年2月と5月,2022年2月の5か月であった,それらは全て緊急事態宣言の期間内又は流行のピークと一致している。2020年度から2022年度の3年間において,2019年度と比べPET保険診療が最も減少した月は2020年5月で,約20%の減少であった。10%以上減少した月は2021年7月と2022年7月であった。この3か月は,院内がん登録の自施設初回治療開始例における診断月別登録数の2018年及び2019年平均比(2018年及び2019年平均登録数比)においても,75%,91%と93%と大きな減少があり,同様の傾向であった23)。2019年度と比べ減少が見られた一方で,2021年3月は2019年度と比べ10%を超える増加が見られた。また2022年6月と2023年3月は107%と増加が見られた。2021年3月と2022年6月は,診断月別登録数の比(2018–19年平均登録数比)において112%と113%と増加しており,2020年1月から2022年12月の期間内で最も高い月であった。年間の算定回数は,2019年度比で2020年度の97.3%から2021年度は99.6%,2022年度は99.8%と件数に回復傾向が見られた。また各年度の診療月別算定回数の標準偏差は,2019年度は1,915回,2020年度が3,842回,2021年度が2,312回,2022年度が1,925回であった。流行初期の2020年度は各月の変動が最も大きく,2022年度は2019年度と同様に各月の変動が少なかった。
5・1 PET検査の算定回数
2022年度PET検査の保険診療において,装置別の算定回数はPET/CTが約8割を占めていた。しかし保険診療では,実際に検査を行った装置とは別の装置として算定することがあるので,装置別の検査件数には注意が必要である。例えば,[18F]FDGを用いたPETでは心疾患が保険適用となるが,PET/CTでは保険適用とならないため,PET/CT装置で虚血性心疾患の検査を実施した場合には,PET検査として診療報酬を算定することになる24)。同様なことが13N標識アンモニア剤の検査にも当てはまると考えられ,実際にはより多くの検査がPET/CT装置で行われていると考えられる。
2022年度のPET保険診療の算定回数は,合計で528,840回であり,人口千人対では4.2回となる。OECDの資料では暫定や推定の検査件数がデータに含まれており,また装置台数と検査件数の対象年が異なるため同じ条件での比較とはならないが,我が国はPET検査装置の数は比較的多いがPET検査の件数は少ないことになる。PET検査件数については,各国で医療保険制度が異なるため単純な比較はできないが,医師のPET検査の有用性に対する認識や医療被ばくに関する考え方の違い,さらに検査に利用できる薬剤の種類など様々な要因が考えられる。
15O標識ガス剤を用いたPET検査は,2002年に保険適用となった[18F]FDGより早く,1996年に保険適用となっている25)。本邦では主に脳血管障害の血流酸素代謝測定のために用いられているが,15Oは半減期が約2分と短く専用の製造・供給装置が必要なため,実施施設が限られている。2022年度の保険診療の算定回数は合計で678回とPET薬剤のなかで最も少なかった。脳血管障害は,脳梗塞,脳出血,くも膜下出血などの病態に応じた入院を伴う高度な治療やリハビリが行われるため,診断や治療の効果判定を目的とする15O標識ガス剤を用いたPET検査は入院での算定回数が多くなると考えられる。
PET検査に関連する診療報酬体系では,「画像診断管理加算1~3(核医学診断)」,「遠隔画像診断による画像診断管理加算1~3(核医学診断)」,「電子画像管理加算(核医学診断料)(一連につき)」といった加算がある。NDBオープンデータの各加算を確認すると,当該算定回数にはSPECT検査などの核医学検査も含まれていると考えられ,PET検査のみの回数を推定することが困難であるため,今回の集計から省略した。乳幼児加算と幼児加算も外来/入院比が低く入院での算定が多かった。小児がんは,白血病が32.3%,脳腫瘍が25.1%,リンパ腫が9.8%と報告されている26)。PET検査は,これらの悪性腫瘍を対象疾患とするが,6歳未満の幼児の場合には鎮静などの前処置が必要なことも,外来より入院での実施回数が多い理由と考えられる。
5・2 性・年齢別
[18F]FDGを用いたPETの適応疾患としては,てんかん,心疾患,悪性腫瘍(早期胃癌を除き,悪性リンパ腫を含む。),血管炎である。先述のアンケート調査によると,2022年の保険適用の疾患別[18F]FDG-PET検査実施件数は,悪性腫瘍が98.0%,心疾患が1.1%,大型血管炎が0.7%,てんかんが0.2%とその大部分が悪性腫瘍であり,その内訳は,肺癌26.4%,悪性リンパ腫14.9%,乳癌10.8%などが件数として多かったが,早期胃癌を除く全ての悪性腫瘍が保険適用であることを考慮すると,性・年齢階級別のPET検査の算定回数において,幅広い年代の女性に発生する乳癌を除いては,性・年齢の算定回数の分布に特徴は指摘しづらい。
[18F]FDGを用いたPET/CTは,心疾患が適用とならないが,先述のように心疾患の検査件数は少ないため,PET/CTについても図2のように,図1と同様の性・年齢階級別の分布になると考えられる。
[18F]FDGを用いたPET/MRIでは,男女比で1 : 2.2と女性の算定回数が多かった。女性の年齢別では45~79歳と幅広い年齢に多く分布していた。子宮癌及び乳癌は若年女性に多く,2020年の年齢階層別罹患率をみると,60歳未満では女性の癌罹患の半数以上を占めている。正確な疾患の内訳は示されていないが,これらの癌は[18F]FDG-PETとMRIを組み合わせることによって,原発巣の広がりや転移の評価など病期診断に有用27)なことや,PET/CT検査に比べて被ばく線量を抑えられたりすることなどから,[18F]FDGを用いたPET/MRIは女性の癌の診断に多く用いられていることが考えられる。PET/MRIの保険適用疾患は,PETやPET/CTで多くの検査がされている肺癌や大腸癌などは含まれてない(2022年度のPET/MRIの保険適用疾患は,脳,頭頸部,縦隔,胸膜,乳腺,直腸,泌尿器,卵巣,子宮,骨軟部組織,造血器,悪性黒色腫の12種類の悪性腫瘍)。前立腺癌は,[18F]FDG-PETでは診断が困難であるが,MRIが有用なため[18F]FDGを用いたPET/MRIは現状でも比較的多く実施されているものと思われるが,現在国内で治験が行われている68Ga-PSMAが今後保険適用となれば,PET/MRIの男女比や年齢分布は変化するものと思われる。
歯科診療における[18F]FDGを用いたPET, PET/CT及びPET/MRIでは,口腔癌や咽頭癌などの頭頸部癌が保険適用である。男性のPETの保険診療のピークは70~74歳,口腔・咽頭癌の罹患率のピークは75~79歳である。女性の口腔・咽頭癌の罹患率は85歳以上にピークがあるが,PET保険診療の算定回数のピークは80~84歳である。
13N標識アンモニア剤を用いたPETは,他の検査で判断のつかない虚血性心疾患の診断を目的として行った場合に算定できる。虚血性心疾患には性差があり,2020年の患者調査による傷病分類別の虚血性心疾患の患者数は,男女共に40歳ごろから75~89歳をピークに分布し,男性が多い傾向が見られた(男女比は1.8 : 1)。2022年度のPET保険診療における13N標識アンモニア剤を用いたPETの性・年齢別分布は,虚血性心疾患の性・年齢別分布とおおむね類似した傾向が見られた。
乳房用PETは,薬事承認されている乳房専用のPET装置を使用し,乳癌を適用疾患として検査が行われる。乳房専用の近接撮像型PET装置では,乳房は体表面に位置しているため病巣を検出器に近づけることが可能で,従来の全身用PET装置よりも高い分解能を得ることできる28)。2020年の乳癌の年齢階層別罹患率では,40~79歳の罹患が多く,乳房用PETの保険診療の性・年齢別と似た傾向が見られた。このことからは,乳房用PETの検査が幅広い年代で行われていることがわかる。
5・3 都道府県別
がん診断に関わる画像診断の同一国内の地域差については,国内外で様々な研究がなされている29, 30)。例えばノルウェーにおいては,外来患者における各種画像診断のなかで,PET/CT及びPET/MRIの同国内での地域差が最も大きい。特に,PET/MRI装置については導入地域が限られていることが地域差の一因と指摘されている31)。本邦においても,15O標識ガス剤及び13N標識アンモニア剤を用いたPET並びにPET/MRIによる保険診療の実施はそれぞれ6都道府県に限られていた(6都道府県の内訳はそれぞれ異なる)。用いられる薬剤や装置の普及は都道府県別の差の要因になり得るが,これらは検査回数が少ないためPET検査全体の地域差に対する寄与は少ないと考えられる。
都道府県別の差については,がん検診の受診率など様々な要因が関係していると考えられる。今回,PET等の台数及び専門医人数のみから都道府県の差を説明することはできなかったが,いずれも算定回数と弱い正の相関が見られたことからは,検査装置や専門医が多いことが,PET保険診療の件数を増加させる一因と考えられる。
5・4 COVID-19流行の影響について
本邦においては,COVID-19の流行下で,定期健診や医療機関への受診が減少したことが報告されている32, 33)。PET保険診療の算定回数は,2019年度比で2020年5月に20%,2021年7月と2022年7月に10%の減少があった。2019年度同月と比べてPET保険診療の回数が減っていることは,緊急事態宣言などによる外出自粛や感染の恐れから医療機関への受診控えが影響したことが一因として考えられる。2020年度~2022年度のPET保険診療の算定回数の増減は,院内がん登録の2018年及び2019年平均登録数に対する診断月別登録数の比と同様の傾向が見られた。院内がん登録は,がん診療連携拠点病院等を中心に,全国約850病院で行われているもので,各施設でがんの診療を行った全ての患者データが登録されている。[18F]FDG-PET検査の保険適用は悪性腫瘍のほぼ全てが対象のため,COVID-19流行の影響によりPET保険診療と院内がん登録は同様に減ったものと考えられる。
年間の算定回数は,2019年度と比べて2020年度が最も少なく,2021年度及び2022年度にかけて回復傾向であった。また診察月ごとの変動は,2020年度が最も大きく,2021年度及び2022年度は少なくなり2019年度と同程度となった。以上よりPET検査の保険診療は,COVID-19流行の影響がほとんどなくなり2019年度の状況に戻りつつあることが確認された。
PET検査の保険診療の実態について,NDBオープンデータを用いることで,従来のアンケート調査では検討されてこなかった性別・年齢別や都道府県別の観点から我が国のPET検査の実施状況を明らかにすることができた。また診療月別のデータからPET検査の保険診療に対するCOVID-19流行の影響を明らかにした。
日本アイソトープ協会医学・薬学部会 ポジトロン核医学利用専門委員会
- 委員長
- 織内 昇 福島県立医科大学ふくしま国際医療科学センター
- 委員
- 佐藤 葉子 藤田医科大学東京先端医療研究センター
- 千田 道雄 神戸市立医療センター中央市民病院
- 田代 学 東北大学先端量子ビーム科学研究センター
-
巽 光朗 大阪大学医学部附属病院
- 立石宇貴秀 東京科学大学大学院医歯学総合研究科
- 中本 裕士 京都大学大学院医学研究科
-
西井 龍一 名古屋大学大学院医学系研究科
-
花岡 宏史 関西医科大学光免疫医学研究所
- 馬場 眞吾 九州大学大学院医学研究院
- 平田 健司 北海道大学大学院医学研究院
- 細野 眞 近畿大学医学部
- 間賀田泰寛 浜松医科大学光医学総合研究所
引用文献References
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