RADIOISOTOPES

Online ISSN: 1884-4111 Print ISSN: 0033-8303
RADIOISOTOPESは日本アイソトープ協会が発行する学術論文誌です
Radioisotopes 74(1): 55-62 (2025)
doi:10.3769/radioisotopes.740101

ノートNote

実例に基づく自然起源放射性物質の合理的な防護の一考察Consideration of Reasonable Protection for Naturally Occurring Radioactive Materials Based on an Actual Case Study

東京大学The University of Tokyo

受付日:2024年6月6日Received: June 6, 2024
受理日:2024年8月13日Accepted: August 13, 2024
発行日:2025年3月15日Published: March 15, 2025
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NORMの取扱いの実例と放射線施設等での放射性物質の管理方法を比較し,NORMの合理的な取扱方法の枠組みを考察し提案した。作業区域の考え方として,厳格な管理方針を取る管理区域ではなく,規定を設けない監視区域の考え方を取り入れ,合理的な適用例を示した。作業者とNORM自体の取扱いの枠組みについては,作業者は職業人の特徴を持つが,防護の観点では放射線に関する知識がない等の理由から,公衆として扱うべきとし,管理目標として1~5 mSv/yを提言した。

This study aims to propose a reasonable radiation management framework for naturally occurring radioactive materials (NORM) by comparing NORM handling practice with the management of radioactive materials in radiation facilities. For the concept of the work area, we adopted the idea of Supervised area instead of Controlled area with strict control and showed an example of its reasonable application. Persons who occasionally engage in tasks related to NORM might be categorized as public due to their lack of expertise in radiation. However, considering their occupational characteristics, we propose an acceptable safety dose criterion of 1–5 mSv/y.

Key words: naturally occurring radioactive material (NORM); radiation protection; exposure category; planned exposure situation; existing exposure situation; supervised area

1. はじめに

自然起源の放射性核種以外に有意な量の放射性核種を含まない放射性物質を自然起源放射性物質(Naturally Occurring Radioactive Material,以下NORM)1)と呼ぶ。このNORMは,製造業,鉱業,建築などの産業活動を通じて私たちの身の回りに実に多く存在している。特に産業廃棄物などの形で比放射能(単位質量当たりの放射能,Bq/g等で表現される)が意図せず人為的に濃縮され,相対的に高いレベルになることがある。このように濃縮されたNORMはTENORM(Technologically Enhanced Naturally Occurring Radioactive Material)2)と呼ばれる。本論文では,TENORMも含めてNORMと称する。NORMは日常生活の中で意識されずに存在することもあり,ある日突然に放射性物質として認知されると,学校や自治体関係者などの放射線に馴染みのないグループがその対応に苦慮することがあり3),放射線への恐怖感と相まって社会混乱の引き金となる事態も少なくない。

人工の放射線・放射性物質の取扱いとその防護は,主に放射線・原子力施設(以下,施設と呼ぶ)を対象として法やガイドライン等が厳に定められている。一方,NORMに関しては,ウラン,トリウムを含む指定原材料を扱う事業者向けの後述のガイドラインを除いてその取扱いと防護に関する国内の取り決めは存在しない。上述の通りNORMは環境のどこにでも存在し,その物量や放射能量などにおいても大きなばらつきがあり,人工の放射線源とは異なる特性を示すことから,その特性を踏まえた適切な取扱いのルールや作業指針等の整備が求められている4)

我が国におけるNORMに関するガイドラインとしては,鉱石や精製したウラン,トリウムを含む金属などの指定原材料を扱う事業者の自主管理を目的とした「ウラン又はトリウムを含む原材料,製品等の安全確保に関するガイドライン5)」がある。しかし,このガイドラインで規定されていない事業者や,ウラン,トリウム以外のNORMを包括的に扱うガイドラインは未だ整備されていない。このような現状の下,わが国で高い表面線量率のNORMが認知された場合には,一般的には,その防護のための標準的で具体的な対処方法が見いだせないため,念のために厳格な防護対策が選択される傾向にある。筆者らは別報にて,取り組むべき重要な課題として「NORMに関するわが国としての総合的な放射線防護の戦略の策定」を挙げており3),放射線防護体系の枠組みの中で合理的な対処方法を検討し,ステークホルダーとの議論を経てコンセンサスを得るプロセスが重要だと考えている。

本論文では,施設における放射性物質の取扱い方法とNORMを取り扱った実際の事例を比較しつつ紹介する。この事例では,NORMの存在の認識からはじまり,放射線防護の観点での思考や行動を経て,一時的な保管に至るまで,諸プロセスでの工夫を実践した。このような実戦経験に基づき,身の回りに存在するNORMに関する合理的な取扱い方の枠組みを提案する。

2. NORMの取扱いにふさわしい区域の位置づけ

放射性物質には密封状の線源と非密封状の線源があり,その2種類の線源は振る舞いが異なり,被ばくの経路や防護の方法も異なる。したがって,施設における放射線源の取扱いや管理は,密封か非密封かによって区分されている。人為的なプロセスを経なければ,NORMは一般的に密封の形状を取らないので,放射性物質としての状態は結果的に後者つまり非密封線源のものに近くなるといえる。非密封線源とは「その中の放射性物質が(a)容器に永久に密封されていないか又は(b)密に結合された固体状でもない放射線源」と定義されている6)。施設においては,法令に基づき所定の教育訓練を受けた放射線業務従事者が,人工線源を管理区域内で扱うことになる。管理区域とは,「通常の作業条件のあいだ,通常被ばくを管理するか又は汚染の広がりを防ぎ,潜在被ばくを防止するか又はその程度を制限するため,特定の防護対策と安全規定が必要か又は必要となりうる」と定められた区域である1)。区域内では,汚染の拡大防止や被ばくからの防護に厳格に努める必要がある。

一方NORMについては,放射性物質の扱いに精通していない者であっても,環境を選ばずに取り扱わなければない可能性や必要性が生じる。上記の通り,非密封線源に極めて近い物質を安全かつ合理的に取り扱う区域をどのように位置づけるかが,ひとつの大きな論点となり得る。人工線源に求められている上記の「管理区域」の概念の適用は,NORMの特性からは適当とはいえそうになく,NORMを取扱う者を一種の職業人とここでは一時的に位置づけ,例えば,国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection,以下ICRP)の勧告で,作業場所の分類として,「管理区域」とともに示されている「監視区域」の概念の適用がより相応しいのではないかと筆者らは考えた。監視区域とは,「管理区域には指定されていないが,職業被ばく条件が常に見直されている区域であり,特定の防護措置又は安全のための規定は通常必要としない区域」を指す1)。監視区域は本来,管理区域を持つ放射線管理体制の整った事業者によって設定される。本論文では,管理区域を明確に設定していないが,専門家の立ち合いの下,安全対策を行う範囲を管理区域と概念的に設定し,その周囲を監視区域と考えた。この筆者らの新たな整理に基づいて,実例を用いて具体的な対応・対策を後述する。

3. 実例に基づくNORMの放射線防護

3・1 本研究で扱う実例の概要

ここでは学校の校庭で長年にわたり使用されていた手作りゴールポスト(金属製の配管の廃材を利用)の内部に,比較的高レベルの放射能を持つ物質が付着していた例を扱う3)。この例は,廃棄のために配管を校庭で崩し,スクラップ施設へ搬入した際にゲートモニターによって放射線が検知され,自治体へ返却された経緯で発覚したものである。配管は外径5 cm,厚さ5 mmのステンレス製であった。返却後に確認したところ,配管内部には黄褐色の物質が厚さ1 cm程付着しており,また配管側面に空いた15 mm程の穴からは,固定されていない一部の内部物質の粉片が脱落する様子も観察された。

内部に付着していた放射性物質を鉱物学的に分析した結果,その主成分は石膏とジョージアイト,重晶石であり,重晶石にのみラジウムが含まれていることが判明した。これらの情報に加え,顕微鏡などによる色調や組織の状態から,この物質は重晶石の一種である「北投石」と類似していることが示された。北投石は秋田県の玉川温泉や台湾の北投温泉等でみられる鉱物として知られている。放射線学的な分析として,Ge半導体検出器によるγ線スペクトロメトリーやICP-MSによる核種同定と放射能が評価され,ウラン系列核種における226Raを親核種とするその子孫核種が主な含有核種であり,各核種についてそれぞれ350 Bq/g前後であることがわかった。

比較的高レベルのNORMと判明した配管の内部堆積物の部分は,廃棄物処理業者が被ばくなどの様々なリスクを持つ物質の処理責任を負うことが難しく,引き取りは困難で現状では廃棄することはできず行き先がなく,そのまま誰かがどこかで保管せざるを得ない。しかし,金属配管部分を含めて全体としては200 kg程の物量があり,この状態のままでは新たな場所を探して移動をさせることも,保管することも現実的ではなかった。したがって,廃棄不可の部分と廃棄可能な部分を適切に分別し,保管対象となる物量を減らす工夫をし,そのための作業計画を立案した。基本的な考え方としては,施設における放射性物質で汚染された物品の仕分け作業を参考にしたプロセスになる。具体的な作業の流れを以下に示す。

Fig. 1に示した作業工程について,(1)配管切断や堆積物取り出し時の作業環境の構築,(2)保管に係る環境の構築の2つの観点から,非密封線源を扱う場合に想定される取扱方法と,今回実施した取扱方法を比較し,防護対策上の論点を具体的に整理することで,NORMを取扱う際の基本的な考え方を提案する。

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Fig. 1 Workflow in this case study

3・2 管理すべきNORMの物量を減らすための工夫と現場対応

3・2・1 配管切断や堆積物取り出し時の作業環境の構築
3・2・1・1 作業区域

非密封線源の取扱いでは,物質の性状に合わせてドラフトチャンバーやグローブボックスを利用することもある。作業範囲には必要な養生を施し,汚染が発生しても容易に除去できるよう万全の対策を行う。

本実例における作業では,配管の切断などの作業が必要であるため,野外の開けた場所に作業環境を構築せざるを得なかった。管理区域と同様なレベルでの防護や管理の考え方を適用するならば,内部が陰圧となるクリーンブースを屋外に設置して作業する案も視野には入るが,ここでは,放射線量や汚染の広がり状況を十分丁寧にモニターし続けつつ,周囲三方と上下を簡易に囲い,その内部で作業を行う方法を採用することにした(Figs. 2, 3)。屋根部分のみ覆われている簡易テント,厚みのあるブルーシート,紐やテープなどの固定用具のみを要し,はじめに下にブルーシートを敷き,その上に簡易テントを設置し,その三方にブルーシートを,壁を作るように取り付けた。また,作業範囲から少し離れた所にもブルーシートを敷き,堆積物や配管などの一時的な置き場を設けた。これら全体を本作業にかかる「監視区域」と位置づけた。

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Fig. 2 Overview of the work area (Color online).

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Fig. 3 Inside of the work area (Color online).

このような方法をNORM関連の作業環境として採用した理由は3点でまとめられる。1点目は,天然物が,特に人為的な工程を介してではなく,環境中の物質動態の延長線上で濃縮,堆積した物質であるならば,「現存被ばく」のカテゴリーに区分することができそうで,たとえ飛散があっても環境学的にも放射線防護学的にもその影響は自然の変動の範囲に留まると予想できたためである。この点については,関連作業と並行して厳格な放射線モニタリングを実施することでその妥当性を確認することができた。2点目は,放射線に精通していない者であっても,作業がしやすい環境を用意することが,結果的に作業者も,また周囲の公衆も,合理的に安全が担保されるためである。3点目は,保管対象となる物品量を最小化するためである。作業環境を,管理区域ではなく,一種の監視区域のように位置づけることで,現存被ばくの線源となったNORMやそれが付着した物品も,上記3点に示すような一定の条件を満足すれば放射性物質としての特別な扱いをすることなく安全を保持することが可能となろう。

3・2・1・2 作業服

管理区域内で放射性物質を扱う場合には,特に内部被ばくの防止のために,白衣や二重手袋に加えて,安全メガネ,マスク,腕カバー等を着用することがある。非密封線源を扱う際には,簡易型の呼吸保護具や加圧式エアラインスーツを着用することもある7)

本実例における作業では,一般的な作業服の上に合成樹脂製の作業衣,安全メガネ,防塵マスク,手袋,長靴を着用した。手袋は管理区域内で着用するような薄いゴム手袋に加え,切断時に工作機械を使用するため,ポリウレタン製の滑り止め加工された厚手の手袋も着用した(Fig. 4)。ICRP Publication 75には個人用防護衣・防護具について「個人の一般的な作業効率を低下させ,そのための任務を完了するのにより長い作業時間を必要とする結果になりがちである。その結果生じる外部被ばくの増加や一般的な安全上の障害による何らかのリスクの増加も,そのような器具の使用を決める際に考慮すべきである。」とある7)。今回は配管の切断が主な作業内容であり,管理区域内で行われるような厳重な防護衣を着用することは,作業時間を増加させる原因となり,結果として作業者の外部被ばくを増加させる要因となりうる。特に飛散物に大きな留意をして,作業者本人にかかる放射性物質の付着と吸引を防ぐために,このような作業服とした。

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Fig. 4 Scene of actual work (Around 2–3 µSv/h at distance of 1 m) (Color online).

3・2・2 保管物とその方法

非密封線源は,貯蔵施設内に保管される。線源自体や汚染した廃棄物は専門業者によって引き取られ,適切に処理される。また,線源の比放射能が大きく,作業時に汚染が発生したかはサーベイメータによって比較的簡単に判別できるため,汚染され廃棄物となるかの線引きは明確に可能である。保管(廃棄)物は,管理番号を付し,その情報が帳簿上に確実に記されている。これらはすべて放射線管理室の管理下に置かれ,管理者が異動や退職によって変更となっても引継がれ,確実な一元管理がされている。

本実例における保管場所としては,関係者の議論を重ねた結果として,公衆のみならず,それを知る関係者も日常では近づく可能性がきわめて低い建物が選定され,その部屋と建物,敷地境界のすべてが施錠された。保管時には,堆積物が付着した物品等はその遮蔽能力も考慮されてステンレス製タンクに入れ,ロープで蓋を固定し設置した(Fig. 5)。ウラン系列核種では222Rnがガス状で存在する。そのため,ふたをあえて密閉せず少し隙間を空けておくことでガスが溜まることを防ぎ,222Rn以下の系列核種が蓄積し線量率の上昇するのを抑えた。一時保管の区域は,封入・設置作業中は「監視区域」と位置づけたが,その後の継続的な保管のフェーズになると,監視区域としての役割は解除してよいと考えた。この場合,被ばく線量と汚染のリスクは,環境放射線に埋もれるレベルにあるべきで,かつ,計画被ばく状況下での公衆被ばくに求められる防護レベルを当然に下回ることが確実であるべきである7)。上述の保管場所及び保管方法の選定は,そのすべてを満足するものである。

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Fig. 5 Temporary storage container used in this case study (Color online).

施設管理区域での線源については帳簿の管理が厳格になされ,管理者の異動・退職があっても確実に引き継がれるが,NORMの場合は,放射線の扱いに明るくない者が管理を担当する可能性が高いことから,管理情報が断絶する可能性が高まる事態は想像に難くない。重要な情報を記載した様式が保管された物品と共にあることがきわめて重要となる。この情報様式には,保管開始日,総重量,取扱上の注意,表面ガンマ線量率,そのNORMの発見場所と経緯,測定から判明した鉱物学・放射線学的な情報,内容物の一覧表と写真を記載した。タンクを完全に開封しなくとも,これらの情報を第三者が認知できるようにしておくことで,情報の完全な喪失の防止と共に,余計な被ばくリスクの低減にも資する。

4. NORMを扱う者の位置づけ

NORMからの被ばくは,上述の通り一般的には現存被ばく状況に位置づけられるだろう。これは現存被ばくが「管理についての決定がなされる時点で既に存在している状況1)」と定義されているためである。本実例は,その物質の放射能が高いことを知りながら,配管の切断による堆積物の取り出しや一時保管の準備などの作業を行うため,既に発生している被ばくに加え追加線量が発生するとも考えることができる。したがって,計画被ばくに区分された職業被ばく(または公衆被ばく)と位置づけることも可能である。計画被ばく下の職業人は,我が国の施設では「放射線業務従事者」と位置づけられることがあり,法令で定められた所定の教育を受けた者であり,放射線・放射性物質に一定の知識が要求されている。一方,NORMの作業者は放射線に関する専門的な知識のない,公衆に近い存在でも可能であることが要求されるならば,上記の放射線業務従事者には該当するには相応しくない。筆者らは,このような作業者は,防護上の区分としては,計画被ばく下の公衆の一種として扱うことにより,様々なステークホルダーの理解を得ることができるだろうと考えている。

5. NORMの取扱いの枠組み

防護の観点からはNORM関連の作業者を公衆の一種として扱いつつも,その作業内容は職業人としての特徴を持つことを踏まえ,放射線影響リスクを有意に増加させない,つまり被ばく線量を容認できる範囲内に合理的に抑え込む包括的な枠組みを提案する。

NORMによる被ばくは,規制当局が計画被ばくとして位置付けていない限り,現存被ばくと考えられ,参考レベルは1~20 mSv/yの幅から,考慮されている被ばく状況の一般的な事情によって決定される1)。ICRP Publication 142では,公衆被ばくは日常的な排出物として大気と水中に放出される放射性核種と建築材等の製品の副産物(NORMを含む)の使用によって受ける被ばくについては,参考レベルを数mSv/yもしくはそれを下回るよう選択すべきとされている8)

しかし,本論文で扱った実例における作業の内容としては計画被ばくの職業人と公衆の両方の特徴を合わせもつため,参考レベルではなく個人線量限度を採用した。ここでは,「計画被ばくの公衆における個人線量限度1 mSv/y(5年間の平均1 mSvを超えなければ,単一年にこれよりも高い実効線量でも許される)も満たす必要がある1, 9)」と考えた。放射性物質で汚染した物品の再生利用10)などの人工的な線源の取扱い時に議論となり得る,免除やクリアランスで扱われるような有意な追加線量を認めないレベルで運用すべき事例がある可能性も完全には否定できないものの,NORMは自然環境由来であることが大原則であることを強調し,ここではなじまないと判断した。したがって,計画被ばくの公衆被ばくの個人線量限度は,5年間の平均1 mSvを超えなければ,単一年にこれよりも高い実効線量が許されることを基盤に,今回のような作業では,年を跨いで継続的に高レベルのNORMと接することは(民間では)考えにくいため,筆者らは1~5 mSv/yの幅を持って,個人管理の目標としての基準値を設定する方針がよいと提案する。

NORMと人の関係性は多種多様であり,被ばく状況と被ばくのカテゴリーは連続な広がりを持ち,境界線・範囲が明確ではない。本実例のみを見てもNORMに関連する被ばくには,現行の防護体系に基づく公衆と職業被ばく,現存と計画被ばくの別で明確に分類をすることが困難な事例が多い。このことを念頭に置き,そのNORMとの接し方が連続体の中でどの位置にあるか他の実例も踏まえながら整理し,管理目標としての基準値を設定していく必要がある。

6. 結論

本論文では,NORMの存在の認識からはじまり,放射線防護の観点での思考や行動を経て,一時的な保管に至るまで,諸プロセスでの工夫を実践した。このような実戦経験に基づき,身の回りに存在するNORMに関する合理的な取扱い方の枠組みを提案した。諸プロセスでの工夫については以下の2つを実践した。

  • ORMの取扱いにふさわしい作業区域の考え方として,規定を設けない監視区域の考え方の取り入れ
  • この方針での現場における実際の取扱いについて,管理区域内と監視区域内とで比較しつつ実務的で合理的な適用例の提示

これらを踏まえ,NORMを扱う作業者とNORM自体の取扱いの枠組みについて考察し,作業者は作業の内容としては職業人の特徴を持つが,防護の観点では放射線に関する専門的な知識がない等の理由から,公衆として扱うべきであるとし,管理目標としての基準として,1~5 mSv/yを提案した。

本論文が,NORMの理解を促進し,かつ,NORMの取扱いと管理に関する実務に関連した我が国の方向性を議論するための一助となれば幸いである。

謝辞Acknowledgments

堆積物の切断や輸送,分析に協力を頂いた大和アトミックエンジニアリング株式会社及び公益財団法人 日本分析センター,本実例を提供いただいた延岡市役所,本研究全体にわたり,助言を頂いた日本文理大学 甲斐 倫明教授,公益社団法人 日本アイソトープ協会 三輪 一爾博士に謝意を表します。本研究の一部は放射能環境動態・影響評価ネットワーク共同研究拠点(ERAN)Y-22-13, Y-23-14, 2022-2023年度放射線災害・医科学研究拠点広島大学,科研費23KK0040の支援に基づく。

著者貢献内容

小池弘美:研究の企画と実例の取り扱い及び論文原案の作成

飯本武志:枠組み等に関する議論と論文の推敲

利益相反の開示

本論文に関連し,著者全員について開示すべき利益相反(conflict of interest; COI)関係にある企業等はない。

引用文献References

1) ICRP,国際放射線防護委員会の2007年勧告,ICRP Publication 103, Ann. ICRP 37(2–4) (2007)

2) U.S. Environmental Protection Agency, Technologically Enhanced Naturally Occurring Radioactive Materials From Uranium Mining Volume 1: Mining and Reclamation Background (2008)

3) 小池弘美,甲斐倫明,飯本武志,金属配管廃材で検知された自然起源の放射性堆積物に関する放射線防護学的な論点と課題,Japanese Journal of Health Physics, 57, 140–145 (2022)

4) 文部科学省放射線審議会基本部会,自然放射性物質の規制免除について(2003)

5) 文部科学省,ウラン又はトリウムを含む原材料,製品等の安全確保に関するガイドライン(2009)

6) IAEA, Radiation Protection and Safety of Radiation Sources: International Basic Safety Standards, IAEA Safety Standards Series No. GSR Part 3, IAEA (2014)

7) ICRP,作業者の放射線防護に対する一般原則,ICRP Publication 75, Ann. ICRP 27(1) (2007)

8) ICRP,産業プロセスにおける自然起源放射性物質(NORM)に対する放射線防護,ICRP Publication 142, Ann. ICRP 48(4) (2019)

9) ICRP,国際放射線防護委員会の1990年勧告,ICRP Publication 60, Ann. ICRP 21(1–3) (1991)

10) Miwa, K. and Iimoto, T., A source-related approach for discussion on using radionuclide-contaminated materials in post-accident rehabilitation, J. Radiat. Prot. Res., 48, 68–76 (2023)

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